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過失相殺のモデルケース

過失相殺

 

交通事故において、被害者にも「過失」すなわち注意義務違反があったとみなされると、その分を損害賠償額から引かれることがあります。これを法律上の用語で「過失相殺」といいます。交通事故で負傷し、損害賠償額がいくらぐらいになるかということを考える場合には、過失相殺によっていくら減額されるかという点も考慮するとより正確な額が把握できます。そこで、以下では過失相殺について調べる方法を詳述します。

赤本

 

過失相殺につき調べる場合には、財団法人日弁連交通事故相談センター東京支部の出版している『損害賠償額算定基準』書籍、通称「赤本」と呼ばれるものを使用すると良いです。実務はこの赤本を基準に動いておりますので、この赤本の基準を知っておくことが望ましいです。

事例紹介

 

以下では、いくつかの代表的な事故の形態を取り上げて、各場合の歩行者と自動車の過失割合の考え方を紹介いたします。この基準が絶対というわけはありません。裁判等になればそれぞれの具体的な事例に沿って双方の過失が認定されることになります。あくまで目安ですので、自分がどのくらいの過失割合と認定される可能性が高いのかという意味ではご参考にしてください。

 

 

ア 横断歩道上での直進車と歩行者の事故の一例
ここでは、歩行中の歩行者信号に変更がない場合、すなわち、歩行者が青・赤・黄のいずれかの場合に横断歩道を横断し始め、横断歩道上で直進してきた自動車と接触するという事故にあった場合の過失割合の目安を示します。

横断歩道上での直進車と歩行者の事故の一例

 

自動車と歩行者の信号 自動車の信号 自動車は赤信号で進入 自動車は黄色信号で進入 自動車は青信号で進入
歩行者の信号 青信号 黄色信号 赤信号 赤信号 赤信号
自動車と歩行者の過失割合の区別 車の過失割合 歩行者の過失割合 車の過失割合 歩行者の過失割合 車の過失割合 歩行者の過失割合 車の過失割合 歩行者の過失割合 車の過失割合 歩行者の過失割合
歩行者の過失の割合を増加させる要素 事故時が日没から日の出時までの夜間である場合(①) 100 0 90 10 80 20 45 55 30 70
幹線道路 75 25
歩行者が車の直前直後に横断したり、横断途中で立ち止まったり後退したりした場合(②)
歩行者の過失の割合を減少させる要素 事故現場が住宅・商店街等、日常的に人通りの多い場所である場合(③) 90 10 60 40 40 60
歩行者が6歳以上13歳未満の児童や65歳以上の高齢者である場合(④) 95 5 85 15
歩行者が6歳未満の幼児や身体障害者、監護者の付き添わない児童でまたは幼児である場合(道路交通法71Ⅱ)90 10 70 30 50 50
歩行者が○人以上の集団で横断している場合 85 15 60 40 40 60
自動車の運転手に著しい過失がある場合(⑤) 90 10 50 50
自動車の運転手に重大な過失がある場合(⑥) 100 0 100 0 70 30 60 40
事故現場の道路に歩車道の区別がなかった場合 90 10 85 15 60 40 40 60

 

①夜間は自動車から歩行者を発見することが必ずしも容易ではないため、歩行者の過失割合加算要素とされています。

 

②道路上における歩行者のこのような行為は、大変危険な行為であるため、過失割合の加算要素とされています。

 

③具体的な場所としては、住宅街や商店街以外には、工場官庁街等における出退社の時刻、生活ゾーン、スクールゾーンも同様に考えられます。このような場所は、自動車の運転者は、通常の道路よりも、歩行者に注意する必要が高い場所といえます。そのため、自動車の運転者の過失割合加算要素であり、逆に言えば、歩行者にとっては減算要素ということになります。

 

④児童や高齢者は判断能力や行動能力の面において一般の人たちに比べて劣る面があります。そのような人たちを保護する必要があるため、その能力に鑑みて歩行者の過失割合を減算する要素となっています。

 

⑤著しい過失とは、事故態様ごとに通常想定されている程度を超えるような過失のことを指します。具体的な例としては、脇見運転等前方不注視の著しい場合などがあげられます。

 

⑥重過失とは、⑤の「著しい過失」よりも更にひどい注意義務違反のことです。

 

 

イ 路上で横たわっている人と自動車が接触した場合
 ここでは、昼間もしくは夜間において人が何らかの理由で道路に横たわっていた際に、道路を走ってきた自動車と接触するという事故にあった場合の過失割合の目安を示します。

路上で横たわっている人と自動車が接触した場合

 

事故現場の時間帯及び状況 〈イ〉昼間において 事前発見が車から容易でない場合 〈ロ〉昼間において(イ)以外の場合 〈ハ〉夜間における事故 座り込んでいる者、四つんばいになっている者にも本基準が適用される。
自動車と歩行者の過失割合の区別 車の過失割合 歩行者の過失割合 車の過失割合 歩行者の過失割合 車の過失割合 歩行者の過失割合
歩行者の過失の割合を増加させる要素 幹線道路 60 40 70 30 40 60
歩行者の過失の割合を増加させる要素 事故現場が住宅・商店街等、日常的に人通りの多い場所である場合 80 20 85 15 70 30
事故現場が明るいところである場合 70 30 80 20 60 40
横たわっていたのが児童であった場合 80 20 85 15
横たわっていたのが幼児であった場合 90 10 90 10 70 30
自動車の運転手に著しい過失がある場合 80 20 85 15 60 40
自動車の運転手に重大な過失がある場合 90 10 90 10 70 30

 

 

ウ 交差点における右折車と直進車が接触した場合
 ここでは、同一の道路において、青信号で交差点に、対方向からそれぞれ進入した車同士が接触するという事故が発生した場合の過失割合の目安を示します。

交差点における右折車と直進車が接触した場合

 

A車とB車の過失割合の区別 A車の過失割合 B車の過失割合直進車に前方注視義務違反 ないしブレーキ操作不適切等の安全運転義務違反などの 過失があることを前提としています。すなわち、直進車に前方不注意等の過失が全くないような場合には、当然、直進車の過失割合は0となります。
B車の過失割合を増加させる要素 B車が右折の際に徐行しなかった場合 10 90
B車が右折禁止の場所にもかかわらず右折をした場合
B車が直進車の至近距離で右折した場合
B車が交差点の中心の直近の内側を進行しなかった場合(⑦) 15 85
B車があらかじめ道路の中央によらなかった場合(⑦)
B車が右折の合図をしなかった、もしくは右折の間合図を継続していなかった場合 10 90
B車がいわゆる大型車であった場合 15 85
B車の運転者にその他著しい過失又は重過失がある場合 10 90
A車の過失割合を増加させる要素 A車が15㎞以上の速度違反を犯していた場合 30 70
A車が30km以上の速度違反を犯していた場合 40 60
B車が既に右折を完了しているかそれに近い状態であった場合 30 70
A車が道路状況を無視して交差点に進入したため他の車両通行の妨害となっていたような場合(⑧)
A車の運転手に著しい過失がある場合
A車の運転手に重大な過失がある場合 40 60

 

⑦道路交通法34条2項によって、自動車は右折する際は、あらかじめその前からできる限り道路の中央により且つ交差点の中心の直近の内側を徐行しなければならない定められている。したがって、B車があらかじめ道路の中央によらずに右折したり、直近の内側を走行しなかった場合に当該規定違反となるため、B車の過失割合が増加することになる。

 

⑧道路交通法50条では、進路前方の車両の状況により、交差点に入ると、当該交差点内で停止するコトとなって、交差道路における車両の通行の妨害となるおそれがあるときには当該交差点にひってはならないと定められている。そのため、A車がこの条文に反して、車両の通行の妨害になるような場所で停止していたような場合には、A車の過失割合が増加することとなる。

 

 

エ 信号機の設置されていない交差点における自転車と自動車の接触事故の一例
 ここでは、信号機の設置されていない交差点に置いて、同一方向から進入してきた自動車と自転車が接触するという事故が発生した場合の過失割合の目安を示します。

信号機の設置されていない交差点における自転車と自動車の接触事故の一例

 

自動車と自転車の過失割合の区別 車の過失割合 自転車の過失割合
自転車の過失割合を増加させる要素 自動車が既に右折していた場合 75 25
自転車の運転手に著しい過失、又は重大な過失がある場合 75~80 20~25
自転車の過失の割合を減少させる要素 自転車の運転手が児童・老人等である場合 5 95
自動車が右折禁止違反をした場合
自動車が徐行なしで右折していた場合
自動車が直進自転車の至近距離で右折した場合
自動車が右折の合図をしなかった、もしくは右折の間合図を継続していなかった場合
自動車が交差点の中心の直近の内側を進行しなかった場合、又はあらかじめ道路の中央によらずに右折した場合
自転車が自転車横断帯または横断歩道を通行していた場合(⑨)
自動車が大型車だった場合 10 90
自動車の運転手に著しい過失、又は重大な過失がある場合 5~10 90~95

 

⑨自転車横断帯を通行する自転車に対する関係では、車両等は、横断歩道上の歩行者に対するのと同程度の注意義務が課せられています(法38条)。また自転車が横断歩道を通行するときは、車両等が他の歩行者と同様に注意を向けてくれると信頼することが通常です。そのため、自動車には、通常の道路を走行している自転車に対するものよりも高い程度の注意義務が要求されることになります。

 

 

オ 高速道路上での自動車と二輪車の接触事故の一例
 ここでは、高速道路上で4輪自動車もしくは二輪車が走行車線から追い越し斜線に車線変更をする際に、接触事故を起こした場合の双方の過失割合の目安を示します。

 

A.四輪車が車線変更する場合

四輪車が車線変更する場合

 

自動車と単車の過失割合の区別 自動車の過失割合 二輪車の過失割合
双方の過失割合を修正すべき要素 自動車が進路変更の合図をしなかった又は合図を出し遅れた場合 100 0
自動車が二輪車の直前に割り込みをした場合
二輪車に初心者マーク等が貼ってある場合 90 10
二輪車が20㎞/h以上の速度違反をしていた場合 80 20
二輪車が40㎞/h以上の速度違反をしていた場合 70 30
二輪車にその他の著しい過失、又は重大な過失がある場合 80 20
自動車が進路変更禁止区間において進路変更をした場合 100 0
自動車の車線変更時の速度が著しく遅かった場合
自動車に著しい過失、又は重大な過失がある場合 100 0
二輪車の側面と自動車の側面が衝突した場合(⑩)

 

⑩直進している二輪車は、通常前方を中止しており、側方に対する注意は低くなる傾向にある。そのため、側方からの事故を回避することは容易ではありません。そのため側方から衝突してきた自動車の注意義務が加重されることになります。

 

 

B.二輪車が車線変更する場合

二輪車が車線変更する場合

 

自動車と単車の過失割合の区別 自動車の過失割合 単車の過失割合
修正要素 二輪車が進路変更の合図をしなかった又は合図を出し遅れた場合 20 80
二輪車が四輪車の直前に割り込みをした場合
自動車に初心者マーク等が貼ってある場合 30 70
自動車が20㎞/h以上の速度違反をしていた場合 40 60
自動車が40㎞/h以上の速度違反をしていた場合 50 50
自動車にその他の著しい過失、又は重大な過失がある場合 40 60
二輪車が進路変更禁止区間において進路変更をした場合 20 80
二輪車の車線変更時の速度が著しく遅い場合
二輪車に著しい過失、又は重大な過失がある場合 80~90 10~20
二輪車の側面と自動車の側面が衝突した場合(⑩)

まとめ

 

ここで、あげた過失割合は一例に過ぎません。また、過失割合は各事故の具体的状況によって変わってきます。自分もしくは相手方にどの程度の過失があるのかについて疑問を持たれた方は一度ご相談ください。具体的な状況をご説明いただければ、より詳しい見通しをお示しすることができます。