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契約締結時のトラブル

情報提供義務について

 

①情報提供義務とは
フランチャイザーがフランチャイジーになろうとする者に対して、契約締結に際して的確な判断をするために正確な情報を提供する信義則上の義務があります。
これを情報提供義務といいます。
フランチャイジーは、経営に関して素人であることが多く、特にその業態のフランチャイズ契約においては、経験がないことがほとんどです。
そこで、契約締結に対して知識、経験、情報を有するフランチャイザーから十分な説明を受ける必要があります。
ところが、フランチャイザーがフランチャイジーに対して、不正確・誤った情報を与えて勧誘行為を行い、結果として経営が破綻するケースがあります。
たとえば、根拠・裏付けのない売り上げ予測を用いて勧誘を行ったり、ひどいケースでは全く事前調査もなく詐欺的な勧誘を行うケースもあります。
フランチャイズ契約に基づく経営の破綻の原因の多くは、勧誘時の説明が不正確であるために、当初の売り上げ予測通りいかなかったケースですので、フランチャイズ契約を巡るトラブルの多くで、情報提供義務が争点となっています。

 

②責任追及の方法
不当な勧誘が行われたケースについてフランチャイジーはフランチャイザーに対して
(1)信義則上の情報提供義務違反による債務不履行責任や不法行為責任、(2)詐欺による不法行為責任、(3)独占禁止法違反よる不法行為責任を追及して、損害賠償請求することができます。

 

③損害賠償の範囲
情報提供義務違反の損害の範囲は相当因果関係のある範囲とされていますが、具体的に問題となるのは、開業に伴う諸費用、加盟金、ロイヤルティ、店舗の賃料、仕入れ代金、営業損失などです。判例上、どこまでを損害とするかは、個別具体的に判断されています。

 

④過失相殺
判例上、フランチャイザーに情報提供義務違反が存在する場合に、フランチャイジー側にも過失があるときには、過失相殺が認められています。
フランチャイジー側の過失とは、フランチャイジー側の知識、経験、動機、目的などが考慮され、判例では、3割から7割の範囲で過失相殺が認められています。

 

⑤判例における情報提供義務違反の内容について
売上収益予測に関する情報提供義務

 

 

判例1
フランチャイザーはフランチャイジーになろうとする者に対して、予定店舗についての的確な情報を収集するとともに、収集して保有するに至った情報を特に秘匿すべき事情のない限り、フランチャイジーとなろうとする者に開示し、フランチャイズ契約を締結するか否かの判断の資料として提供すべき義務、すなわち情報提供義務がある。

 

フランチャイザーは、本件店舗の売上予測に際してかなり楽観的ないし強気の見通しを立てていたことは否定できず、その結果、開店当初の売上予測が実際よりもかなり高めのものになったのであり、フランチャイザーとして店舗経営に関する蓄積したノウハウを豊富に有するフランチャイザーとしては杜撰であったとの誹りを免れない。

 

勧誘時に石川県内の既存店舗の平均日商を説明しただけで、当該店舗に関する日商売上予測値を開示しなかったが、フランチャイジーとしては、既存店舗の平均日商よりも当該立地条件を前提に加盟後にいくらの収益を得ることができるかが最大の関心事であるから、当該店舗についてのフランチャイザーの内部の売上予測は契約締結を決断するにあたり重要な資料となる。

 

フランチャイジーが当該店舗についての売上予測を告げられず、石川県内の既存店舗の平均日商を告げられた場合には、加盟すれば石川県内の既存店舗の平均日商に近い売上を達成できると期待するのが自然である。
(サークルK事件 名古屋高判平成14年4月18日)

 

 

判例2
フランチャイジーになろうとする者に対して立地条件や売上げ予測等に関する情報を提供する場合、フランチャイザーは当該フランチャイジーになろうとする者に対し可能な限り客観的かつ的確な情報を提供する信義則上の義務を負っている。
売上高予測のために用いた商圏人口、マーケットサイズ、シェアに関する各数値は、いずれも十分な調査、検討を経ておらず、合理性を有しない。
予測売上高を前提とする償却前営業利益の予測も同様に合理性を有しない。
(神戸サンド屋事件 福岡高判 平成13年4月10日)

 

 

判例3
フランチャイズ契約を締結するに当たり、フランチャイザーはフランチャイジーになろうとする者に対してできるだけ正確な知識や情報を提供する信義則上の義務、少なくとも不正確な知識や情報を与えること等により契約締結に関する判断を誤らせないよう注意する信義則上の義務を負担している。」、「Yの担当者が見積損益計算書で示した数値のうち、人件費については、オーナーがある程度長時間店舗に入ることにより右計算書のとおり実現可能であったものの、売上、棚卸しロス、見切・処分についての数値は、実績に基いて算出された予測というよりもむしろ目標値として提示されたものであることや、・・・・・当時、本件店舗では、周囲の環境の変化に伴う売り上げの減少傾向が続いていたこと等からすれば、棚卸しロスや見切・処分等の経費が増加し、X1の収入が減少するおそれが十分にあり、それが容易に予想できたのであるから、Yの担当者は、X1に対して収入が減少する危険が高かったことについて説明する義務があった。」

 

それにも関わらず、Yの担当者は、X1に対して、かかる説明を怠り、「X1は売上げの減少に伴って収入が減少する危険があったことを知らされずに」、コンビニ店を「始めたものの、X1による店舗運営の仕方という問題もあったが、減少傾向にある売上を回復できず、・・・・・見切・処分及び棚卸しロスを見積に示された数値に納めることができずに収支が悪化し、採算がとれなくなって右店舗を閉店せざるを得なかったのであるから、Yの説明義務違反と経営破綻との間に相当因果関係があるというべきであり、Yに対し被った損害の賠償を請求することができるものと認められる。」
(ローソン千葉事件 千葉地判平成13年7月5日)

 

 

判例4
「出店予定地に出店した場合の売上高や営業利益に関する情報は、フランチャイズへの加盟を検討している者にとって、フランチャイズ契約を締結するか否かの意思決定に重要な影響を与え得るものであるから、フランチャイザーは、同契約を締結しようとする者に対し、それらの点について、できる限り客観的かつ正確な情報を提供すべき信義則上の義務を負っていると解すべきである。

 

特に本件では、前期1(1)記載のとおり、Yは、Z1との間で、同人のために店舗立地調査(なお、店舗立地の適否を判断する上で、候補店舗における売上予測は重要な考慮要素であり、店舗立地調査の中には当然市場調査等の売上予測に係る調査も含まれるものと解される。)を行うことを目的とする覚書を締結し、同人から覚書締結金50万円を受領していることを鑑みると、そのような覚書締結や金員の受領がない場合に比し、提供すべき情報の客観性、正確性についてはより一層高度なものが要求されるというべきである。

 

そして、フランチャイザーの市場調査の内容等が客観性、正確性を欠いていたり、十分な資料に基づくものではなかったりして、フランチャイザーが提供した情報が、フランチャイズへの加盟を検討している者に、同契約締結に関する判断を誤らせるおそれがある場合には、フランチャイザーは、上記信義則上の義務違反により、フランチャイジーが被った損害を賠償する責任を負うと解すべきである。」
(デイリーヤマザキ事件 大阪地判 平成14年3月28日)

 

136ページ2、情報提供義務違反を書いてください(コンビニフランチャイズ事件 福岡高判平成18年1月31日)
「Yが、・・・・・本件立地評価書の内容等を具体的に開示したかといえば多分に曖昧であって、結局のところは、本件店舗は損益分岐点を上回る売上が見込まれる旨を一般的・抽象的に説明したという域を出ない」、「フランチャイズ契約を締結して、当該店舗の経営に踏み切るかどうかの決断を迫られる出店予定者にとって、肝心なのは、実際にどの程度の売上が見込まれるかどうかであり、それが損益分岐点を上回るかどうかなのであるから、立地調査に基づく売上予測こそがこの場合の決め手ともいうべき最重要の情報である。そうであれば、フランチャイザー側がこの情報を出店予定者に開示しないでよいとする理由は見いだせない。

 

以上によれば、Yは、損益分岐点をはるかに下回る売上予測の数値をXらに開示しておらず・・・・、近隣店舗の売上実績に依拠して、本件店舗も損益分岐点をクリアーできるかのような説明に終始したのであるから」、「Yには情報提供義務違反があることは明らかである」ものといわなければならない。そして、Yの提供したこのような情報により、Xらが本件FC契約の締結に踏み切ったこともまた明白である。
(コンビニフランチャイズ事件 福岡高判平成18年1月31日)

 

 

判例5
「契約締結に向けた準備段階において、フランチャイザーは、出店予定者に対し、フランチャイズ契約を締結してフランチャイジーになるかどうかの判断材料たる情報(その核心部分は、対称点の売上や収益の予測に関するものである。)を、適時に適切に提供すべき義務があり、また、当然のことながら、その情報はできる限り正確なものでなければならないというべきである。

 

それは、フランチャイザー側は予めこの関係の情報を収集し、分析等もしているのに対し、出店予定者側は原則として何らの情報も持たないばかりか、多くの場合はフランチャイズチェーンシステムそのものについても知識・経験を有しないのであり、出店予定者が契約締結に踏み切るかどうかの判断材料としては、フランチャイザーから提供される情報以外にはないというのが実情だからである。」

 

「結果として、Yの売上及び収益の予測は大きく外れたことが認められるから、同予測の正確性には大いに疑問があるといわざるを得ないところ、Yが故意に虚偽の情報をAらに提供したという場合はもちろん、そうでないとしても、①Yの店舗立地調査マニュアル自体に明らかな不合理があったり、②マニュアル自体は合理的であっても、実際の調査・予測においてその適用判断を誤り、或いはそもそも調査が不十分であるなどしたために、結果として正確な予測ができなかったということになれば、Yは保護義務違反の責を免れないものというべきである。」

 

「Yの店舗立地調査マニュアルに基づく現地への当てはめについては、立地調査を担当する社員は、特別の資格は不要であるが、直接の営業担当者ではない。むしろ、動線通行量(人、車)の計測、店舗や看板の視認性、店舗への接近性については、偶然や主観の偏りが生じないように、マニュアルの基準に準拠することが求められているし、その評価に当たっては悲観的・最低・最悪・不利・切り捨てのマイナス発想で臨むべきであるとされている。

 

しかしながら、1店舗出店すればそれに対する成功報酬が営業担当者に与えられるというのであれば、出店できるかどうかの判断に当たって、偏りが生じない保証はなく、現に、商圏の把握については、地勢分析に当たっての物理的バリアーの評価に関して、・・・・・相当甘いところがある。・・・・・客観的であるべき立地評価が営業担当者の影響を排除しきれないことを物語っているし、また、マイナス発想で臨むべきであるとする上記マニュアルの基本姿勢と根本的に矛盾するといわなければならない。

 

以上によれば、Yの立地評価及びそれに基づく店舗の売上・収益の予測にはYの評価マニュアルに照らしても相当でない点があったものというべきであり、この点においてはYには信義則上の保護義務違反があると評価されてもやむを得ないものがある。
(ポプラ事件 福岡高判平成18年1月31日)

 

152ページ真ん中本件において、、から153ページ5行目 負うまで記載(アイディーエス事件 さいたま地判平成18年12月8日)
本件において、Y従業員は、Xらに対し、パネルを用いて、売上げ及び営業収支に関するモデルを説明したが、同モデルは平成8年当時の直営店の売上げを基にしたものであり、契約締結時である平成15年当時のフランチャイズ加盟店の売上げと同一視できない。

 

また、同モデルの売上実績は大宮が営業地域であることを前提とするものであるのに対し、Xらの拠点はいずれも埼玉県外であり、前提とする営業地域が異なる。
さらに、同モデルは加盟店が1か月に30日稼働することを前提としているが、そもそもフランチャイズ契約上営業日は週6日とされており、実際にも個人契約の加盟店が30日稼働することはほとんどなく、1月に30日稼働すると前提は加盟店の営業実態にそぐわない。

 

以上によれば、「Y従業員は、本件フランチャイズ契約の締結に至る段階において、Xらに対し、フランチャイズ加盟店の売上及び営業収益に関し、合理的でない数字を示して、不正確な説明をしたものと認められるから、かかるY従業員の行為は、契約締結に至る段階において、フランチャイザーがフランチャイジーとなろうとする者に対して負う説明義務に違反するものであったというべきである。
そして、フランチャイザーとなろうとする者にとって、加盟後の月々の売上や営業収益に関する情報は、当該フランチャイズ契約を締結するか否かの判断において、最も基本的かつ重要なものであるから、かかるY従業員の説明義務違反は、Xらの契約締結に至る判断に対して、決定的な影響を与えたものと認めることができ」、Yは、Xらに対し、契約締結段階における信義則上の保護義務違反に基づき、Xらが本件フランチャイズ契約を締結したことにより被った損害を賠償する責任を負う。
(アイディーエス事件 さいたま地判平成18年12月8日)