カテゴリー

 

 

フラクタルアーカイブ

著作物の利用が可能な場合

著作権の制限(他人の著作権を無断で利用できる場合)

 

ある著作物が、他人の著作権の範囲の物であったとしても、著作権者が著作権を制限される場合、言い換えれば、他人が無断で著作物を利用出来る場合があります。
その中で主要なものについて、解説します。

 

私的利用目的のための複製(著作権法30条)
「個人的」に、「家庭や家庭に準ずる範囲内」で使用する目的のためには、その使用する者は、複製をすることが出来ます。
ただし、①公衆の使用に供することを目的として設置されている自動複製機器を用いて複製する場合と、②コピーガードがついている物を複製する場合は複製出来ません。

 

簡単に言うと、自分や家族で使用する分には複製しても良いですが、①複製方法が、公衆の使用に供することを目的として設置されている自動複製器ではなく、自家用といえる範囲の方法で、かつ、②コピーガードがついているものはガードを外してはだめですよ。という意味です。

 

私的利用が許容されるための要件に沿って、以下解説します。

 

 

個人的に

 

個人的にとは、集団や組織の活動としてではないという意味です。複製する一人の人間が、自分の意思で行う場合と考えてください。
裁判例上は、会社内部でしか利用しない場合であっても、業務上利用する場合には、私的利用目的とはいえないとしたものがあります(東京地裁昭和52年7月22日「舞台装置設計図複製事件」)。

 

なお、よくこの判例の解説として、最初は私的利用目的で複製したとしても、その後業務で利用したら私的利用目的とはならないという解説がありますが、これは立証の問題と法的要件の問題と、複製時の時点を混同したやや不正確な解説ですので注意してください。
最初私的利用目的で複製したと「立証(裁判所で認定)」されれば、それは私的利用で、その後の行為によって、最初の複製行為が私的利用ではないとされることはありません。
最初私的利用目的で複製し、その後業務で利用する場合に私的利用目的ではなく著作権法違反とされるのは、①再度業務目的の為に複製した場合(再度の複製行為が私的利用目的ではないとされます)と、②最初から業務で利用するために複製したと認定されてしまった場合です。

 

①は別個の複製行為が著作権侵害行為になりますし、②は、全体の行為を俯瞰して、最初から私的利用目的外の複製と「認定」されてしまったのですから、最初の複製がそもそも私的利用目的ではなく、著作権侵害行為となります。この②の認定の問題についてよく誤解される事が多いです。
まとめると、「最初は私的利用目的で複製したとしても、その後業務や営利目的に再度複製すると、業務目的や営利目的の複製行為が違法になるし(①)、新たな複製をしなくても、裁判になったときに最初の複製行為がそもそも私的利用目的ではなかったと裁判所に認定される(②)可能性が高い」ということになります。

 

 

家庭や家庭に準ずる範囲内

 

これについては、何人なのか、どのような関係なのか一義的には定まっていませんが、少なくとも多数の人や、不特定の人に利用させる目的で複製することは私的利用としては許されません。

 

 

いわゆる自炊行為について

 

私的複製については、いわゆる自炊行為や自炊代行行為が著作権法違反かどうかが問題となっています。

 

結論から述べると、自分でデータ化して自分や家族の範囲で利用する場合は適法、自炊代行を利用して複製する行為は平成25年10月30日時点では違法です。

 

詳しくはQ&Aで解説しますが、平成25年10月30日判決によれば、自炊代行は、例え依頼者がいたとしても、実質的な複製者は代行業者であり、代行業者が行う複製は私的利用の範囲に入らないから違法ということになります。ただし、まだ最新の判例なので、今後どのように変化するかはわかりません。

 

その一方で、自分でデータ化する行為はまさに私的利用の範囲内ですし、家族がデータを利用する場合も家庭や家庭に準ずる範囲内として私的利用の範囲内ですから、これは適法な行為です。

 

(Q&Aはこちら→
Qお客様から本を預かり、本を裁断して、PDFに取り込み、データをお客様に返す、いわゆる自炊代行業を行おうと思うのですが、著作権者の許可無く行うことは許されますか。

 

 

付随的な著作物の利用(著作権法30条の2)
いわゆる「写り込み」した物に関する規定です。
写真撮影や、録音、録画方法によって著作物を作成するにあたり、たまたま写り込んだり録音で入り込んだ、分離が困難な他人の著作物については、著作権者の許可無く利用して良いという規定です。
ただし、著作権者の利益を不当に害しないことが要求されています。

 

例えば、駅のホームで映画作品を撮影する際、たまたま駅のポスターや広告が写り込んでいたり、発車ベルの音が録音されたりしていたとしても、著作権者の許可を得る必要はありません。

 

ただし、あくまで写り込んだり入り込んだりした物は、新しく創作された著作物において付随的な地位にあることが必要ですから、写り込んだ物を主題にする創作物を作成する場合には、この規定をもって著作物を自由に使えるという訳ではありません。

 

 

著作物利用検討過程における利用(著作権法30条の3)
著作物の利用をするかどうか検討する際にはその必要な範囲で著作物を利用することが出来ます。 具体的には、例えばあるキャラクターを新商品のパッケージに利用するかどうかについて検討する際、社内資料に当該キャラクターを印刷する等の行為です。

 

 

技術開発・実用化試験のための利用(著作権法30条の4)
録音技術や録画技術や印刷技術等の開発時にサンプルを作成するなど、著作物を、技術開発や実用化試験のために利用する事は、その範囲内であれば許されます。

 

 

図書館における複製(著作権法31条)
図書館の非営利的事業においては、利用者に提供したり、保存のために複製をすることが許されています。

 

 

引用(著作権法32条)
既に公表された著作物は、引用して利用することが出来ます。ただし、①公正な慣行に合致し、②引用の目的上正当な範囲内であることが必要です。なお、引用として許される場合であっても、その出所を明示することが求められます。

 

条文からは、どのような場合に引用が許されるか不明確であるため紛争が生じやすい類型です。判例上は、パロディーが引用として許されるかが問題となった事例や、国語の問題集(入学試験問題ではない)として利用する行為が引用として許されるかが問題となった事例があります。

 

最高裁判例による「引用」の要件

 

条文上、「引用」とされるには、①公正な慣行に合致するものであり、②報道、批評、研究その他の引用目的上正当な範囲内であることが必要とされています。そして、①、②の判断基準につき最高裁は、A引用して利用する側の著作物と、引用されて利用される著作物が明瞭に区別されて認識される事(明瞭区別性)、B(著作権侵害をしていると問題となる著作物において、量的にも質的にも)引用して利用する著作物が主、引用されて利用される著作物が従の関係にあることが必要としています。

 

原則的にこのA、Bの最高裁の基準を利用して、①、②に合致するかを検討することになります。

 

具体的には、著作物の引用部分とそれ以外とが明確に別れており、引用される著作物が質的量的に全体の著作物の中の従たる部分となっていることが必要となります。ただし、下級審判例の中には、A、Bの基準をあげることなく、直接①、②に該当するかを検討している物もあります。

 

また、著作者の著作人格権を侵害しないことも必要とされているので、引用元を明確に表示することが必要になります。

 

 

教科用図書等への掲載(著作権法33条)
既に公表された著作物は、「学校教育の目的上必要な限度で」教科用図書に利用することが出来ます。なお、目的に必要な範囲であれば、翻訳、翻案、編曲、変形も可能です。

 

ただし、著作者への通知と、補償金の支払いが必要です。

 

 

学校教育番組の放送(著作権法34条)
33条と同じ目的、限度において、利用が可能です。

 

 

教育機関における複製等(著作権法35条)
営利目的以外の学校その他の教育機関において、授業を担任する人と授業を受ける人(教師と生徒と考えてください)は、授業の中で必要と認められる限度において、公表された著作物を複製することができます。ただし複製の部数や態様に照らして、著作権者の利益を不当に侵害する場合には複製が許されません。

 

 

試験問題としての複製等(著作権法36条)
既に公表された著作物は、入学試験や学識技能に関する試験又は検定の為に必要とされる限度において、試験又は検定の問題として複製し、又は公衆送信することが出来ます。ただし、複製や送信の態様に照らして、著作権者の利益を不当に害する場合には複製や公衆送信が許されません。

 

この点については、国語の問題集(試験問題ではない)に著作物を利用する行為が許されるかという点が問題になり、Q&Aで実際にあった事例を詳細に解説しています。

 

(Q&Aはこちら→
Q国語テストに他人の著作物を無断で掲載し、販売する場合、引用(著作権法32条)や試験問題としての複製(著作権法36条)にあたりますか。

 

 

視覚障害者等のための複製(著作権法37条)
既に公表された著作物は、点字としたり、視覚障害者等が利用するために一定の範囲内で複製することが許されています。

 

 

営利を目的としない上演(著作権法38条)
著作物の上演、演奏、上映、口述について(1項)
既に公表された著作物は、営利を目的とせず、且つ、聴衆又は観衆から料金を受けない場合には、上演、演奏、上映、口述することが許されます。ただし、実演家や口述を行う者に報酬が支払われる場合は許されません。

 

この条文に関しては、何をもって「営利を目的とせず」となるかを巡って問題となることがあります。

 

例えば、飲食店で、既に公表された他人の著作物を演奏させて来店した客に聴かせる行為が、「営利を目的とするのか」が問題となった事案があり、そのような場合でも「営利を目的」となるとした判例があり、詳しくはQ&Aで解説しています。

 

(Q&Aはこちら→
Q飲食店に来店するお客様に対して、店内で他人の著作物を演奏して聴かせて、演奏する人も無償で演奏している場合、演奏に対する料金をもらわなければ、著作権法38条の無償の演奏ということで許可無く行うことが出来ますか。

 

 

放送される著作物の放送、公衆送信について(2項、3項)
放送される著作物は、営利を目的とせず、且つ、聴衆又は観衆から料金を受けない場合には、有線放送し、又は専ら当該放送に係る放送対象地域において受信されることを目的として、自動公衆送信、公に伝達することが許されます。また、通常の家庭用受信装置を用いて公に伝達することも許されます。

 

著作権法38条3項については、いわゆるスポーツバーで客にテレビ放送を見せる行為が許されるかが問題になりますが、家電量販店で購入可能なテレビ・プロジェクターを利用する場合には許されます。詳しくはQ&Aで解説しています。

 

(Q&Aはこちら→
Qスポーツバーを始めようと考えています。テレビのスポーツ中継をお客様に見てもらうために家電量販店で一番大きなテレビを買いました。テレビ局等の許可を得ずにお客様に中継を見てもらっても大丈夫でしょうか。

 

 

著作物の複製物の貸与(4項、5項)
既に公表された著作物で、映画以外の著作物については、営利を目的とせず、且つ、貸与を受ける者から料金を受けない場合は、その複製物の貸与をすることができます。ただし、ビデオなど映画の著作物の複製物の貸与については、その主体が政令(施行令第2条の3)で定められた視聴覚ライブラリー等及び政令(施行令第2条の2第1項第2号)で定められた聴覚障害者等の福祉に関する事業を行う者(非営利目的のもの限る)に限られ、さらに、著作権者への補償金の支払いが必要となります。

 

 

時事問題に関する論説の転載等(著作権法39条)
新聞や雑誌に掲載して発行された、政治上、経済上又は社会上の時事問題に関する論説は、公衆送信することが許されています。ただし、利用禁止の表示がある場合は許されません。これは、政治、経済、社会上の問題については、公の批評に利用される意義が大きい事から規定されています。

 

 

政治上の演説等の利用(著作権法40条)
公開された、政治上の演説又は陳述および裁判手続きにおける公開の陳述は、同一の著作者のものを編集して利用する場合を除き、利用が許されます。これも、39条同様、政治上の演説や裁判手続きでの陳述が公の批評に利用される意義が大きい事から規定されたものです。

 

 

時事の報道のための利用(著作権法41条)
写真、映画、放送、その他の方法によって時事の事件を報道する場合には、その報道に目的上正当な範囲内において、複製したり利用することが許されます。これも、39条や40条同様、報道のための利用の意義が大きい事から規定された物です。

 

 

裁判手続き等における複製(著作権法42条)
裁判手続きに必要な場合や、立法、行政目的のために内部資料として必要な場合には、その必要性の限度において複製が許されます。ただし、著作物の種類、用途、複製部数、複製態様に照らして、著作権者の利益を不当に害する場合には許されません。