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著作権Q&A

 

Qお客様から本を預かり、本を裁断して、PDFに取り込み、データをお客様に返す、いわゆる自炊代行業を行おうと思うのですが、著作権者の許可無く行うことは許されますか。

 

A平成25年10月30日の段階では許されません。
これはいわゆる自炊代行業が適法か違法かという一般の関心の高い問題で、「どうあるべきか」については適法派と違法派双方ありますが、「どうあるべきか」は置いておいて、「現時点で裁判所の判断はどうなるか」という観点から解説いたします。

 

まず、著作物は、著作権者の許可無く複製すること(データとして取り込む行為も含まれます)は許されません。

 

しかしながら、著作権法30条では「個人的」に、「家庭や家庭に準ずる範囲内」で使用する目的のためには、その使用する者は、複製をすることが出来るとされています。これが、私的利用の範囲の複製は許されているというものです。

 

私的利用の範囲と言えるためには、上述のように、「個人的に」使用する目的が必要です。

 

では、自炊代行行為は「個人的に」と言えるのでしょうか。

 

お客様が自分でデータ化して自分で利用する場合は、もちろん私的利用の範囲の複製として適法です。自炊代行業者が行う場合については、自炊代行がこの私的利用の範囲の複製と言えるか、さらに言えば、自炊代行行為が、業者がお客様の手足となって複製行為を行っていると評価されるのか、それとも代行業者が独自に複製行為を行ってそれを他人であるお客様に利用させていると評価されるのかが問題点となります。

 

裁判所は、この、自炊代行を行う場合に、複製=データ化する作業はいったい誰がしているのか。という問題について、要約すると「確かに頼んだのはお客だけれど、本を裁断して、データ化して、データをお客に返すという一連の作業をしているのは代行業者だから、代行業者が複製をしていると評価出来る。だから私的利用目的の複製にあたらない」と判断しました。

 

この裁判所の判断に従えば、自炊代行業を行う場合には、私的利用の範囲を超えて著作物を複製することになるので、違法となります。

 

「自分でデータ化すれば適法なのに、人に頼むと違法なのはおかしい」と感じるかもしれませんが、そもそも裁判所は「自分でデータ化するのはもちろん適法だけど、自炊代行業者が行う自炊は自炊代行業者が複製して、他人が利用している」と考えて私的利用の範囲外と判断しているので、自分でデータ化することが適法であることとは矛盾しません。

 

今後判例が積み重なって判断が固定化されるまではなんとも言えませんが、平成25年10月30日の東京地裁判決が覆らない限り、自炊代行業は違法となります。

 

 

Q国語テストに他人の著作物を無断で掲載し、販売する場合、引用(著作権法32条)や試験問題としての複製(著作権法36条)にあたりますか。

 

A引用にも、試験問題としての複製にもあたりません。結果、無断掲載も販売も許されません。
まず、引用にあたるかですが、条文上、引用として無断使用が許されるには、①公正な慣行に合致するものであり、②報道、批評、研究その他の引用目的上正当な範囲内でなければならないとされています。 そして、この①、②についてどのような判断基準で判断するかにつき、最高裁は、A引用して利用する側の著作物と、引用されて利用される著作物が明瞭に区別されて認識される事(明瞭区別性)、B(著作権侵害をしていると問題となる著作物において、量的にも質的にも)引用して利用する著作物が主、引用されて利用される著作物が従の関係にある場合に、①、②に該当するとしています。

 

一般的な国語テストに他人の著作物を利用する場合、引用された著作物は通常明示されているので、最高裁の要件のうちA(明瞭区別性)については明瞭に区別されていることが多いでしょう。

 

しかし、最高裁の要件のうちB(主従関係)においては、引用される著作物が主であるということになることが多いため、引用として許される最高裁の要件を満たす事は少ないでしょう。

 

なぜなら、通常、国語テストにおいては、引用される著作物の作者の意図を読み取らせたり、空欄を埋めるという作業をさせることが多いので、引用される著作物の理解を深めるという方向に「国語テスト」という著作物の方向性が向かいがちであるので、ほぼ多くの国語テストで、主たる内容物は引用される著作物の方で、従たる内容物が引用した国語テストの方ということになりがちだからです。

 

次に、試験問題としての複製に該当するかですが、試験問題としての複製に該当するためには「予め著作権者の許可を得る事が困難である」という事情が必要となります。試験問題として複製する場合に著作物の無断利用が許されるのは、予め著作権者の許可を得ると試験問題の漏洩につながるという事情があることと、著作物を試験問題に利用したとしても著作物の通常の利用とは競合しないという理由からです。

 

この点、一般に販売されている国語テストの問題については、予め試験問題として使用していることを秘匿しなければならない事情はないので、試験問題としての複製に該当せず、原則に戻って著作物を無断で利用することは許されないことになります。

 

試験問題としての複製は、単に試験問題だから使ってよいということではなく、著作権者の許可を取る事が出来ないという理由からであることがポイントとなります。

 

判例上も、国語テストについて引用にも試験問題としての複製にもあたらないとした判例があります(東京地方裁判所平成15年3月28日判決)。

 

 

Q飲食店に来店するお客様に対して、店内で他人の著作物を演奏して聴かせて、演奏する人も無償で演奏している場合、演奏に対する料金をもらわなければ、著作権法38条の無償の演奏ということで許可無く行うことが出来ますか。

 

A著作権法38条の無償の演奏にあたりません。結果、著作権者の許可無く行うことは出来ません。
著作権法38条では、既に公表された著作物は、営利を目的とせず、且つ、聴衆又は観衆から料金を受けない場合には、上演、演奏、上映、口述することが許されるとしています。

 

本件の質問は、「飲食店に来店するお客様に対して、店内で演奏に対する料金をもらわずに聴かせる行為」が、この「営利を目的とせず」に該当するかの問題です。

 

一見、お客様からは料金をもらっていないのだし、演奏をする人も演奏料をもらっていないのですから、「営利目的」ではないとも言えそうです。

 

しかし、飲食店は、この演奏をお客様に聴かせる事を飲食店のサービスの一部として提供し、お客様もその演奏を聴く事をサービスとして受け、この飲食店の価値の一部としてしており、店の選択の際や、サービスと支払いとが見合うかという判断材料の一部とするのですから、演奏をすることで飲食店はその評価を高め、間接的に利益を得る事が出来ているといえます。

 

このように間接的に利益を得る場合であっても、実質的には、演奏に対する料金も客の支払う飲食代金に含まれると考えられますし、このような場合に著作権侵害を認めなければ、形式的に無償とする事で容易に著作権法38条の要件を満たす事になってしまいます。その一方で、著作物を広く利用するという観点からしても、著作権者の許可を得て適正な対価を支払えば良いのですし、許可が下りない場合に飲食店で無償演奏する事は出来なくとも、間接的にすら利益を得ることが無い形態(例えば学芸会等)での演奏は許されるのですから、著作物の広い利用と著作権者の利益の調和ははかれます。

 

よって、飲食店に来店するお客様に対して、店内で他人の著作物を演奏して聴かせて、演奏する人も無償で演奏している場合、演奏に対する料金をもらわなかったとしても、著作権法38条の無償演奏に該当せず、著作権者の許可無く行う事は出来ません。

 

判例上も、「営利目的」とは、直接的な対価を得るだけでなく、店の雰囲気作り等の間接的な利益を得る場合も含まれるとしています(最高裁判所昭和63年3月15日判決)。また、質問と同じような事案で、やはり著作権侵害を認めた事例があります(大阪高裁平成20年9月17日判決)。

 

 

Q最近はやった芝居の脚本を利用して学校の学芸会で発表する場合、著作権者の許可は必要ですか。

 

A学芸会で発表する際、料金を徴収せず、発表する子供たちに報酬を支払わなければ、必要ありません。
著作権法38条では、既に公表された著作物は、営利を目的とせず、且つ、聴衆又は観衆から料金を受けない場合には、上演、演奏、上映、口述することが許される。ただし、実演家や口述を行う者に報酬が支払われる場合は許されない。と定めています。

 

学芸会の場合、通常入場料を徴収したり、発表する子供らに報酬を支払うことはないでしょうが、入場料を徴収したり、子供らに報酬を支払わなければ、著作権法38条のとおり、著作権者の許可無く上演が可能です。

 

 

Q最近はやった芝居を学校の学芸会で発表するのですが、その際、子供らが自分たちが考えたアレンジをすることは許されますか。

 

A同一性を害する場合には許されません。
入場料を徴収せず、子供らに報酬を支払わなければ著作権者の許可無く上演出来る事は既に述べましたが、著作権者に無断でアレンジ=改変を加える事は、著作権者の同一性保持権(著作権法20条)を侵害するので、許されない場合があります。

 

どのような場合に同一性保持権が侵害されるかについては一概に言えませんが、厳格な解釈がされる傾向にあり、印刷上色彩が完全に再現出来ない場合や、技術的に完全に再現出来ない演奏をする場合などと解釈されています。

 

よって、まず、脚本の趣旨に反するアレンジは無断では許されませんし、そうで無い場合でも、原則的にはアレンジをする場合には著作権者の許可を得る方が良いでしょう。なお、この場合に許可を得る対象の著作権者は、著作権の譲渡を受けた人や会社ではなく、著作物を作成した本人であることに注意してください。なぜなら、同一性保持権は、著作人格権と呼ばれるもので、譲渡出来ない物とされているので、仮に著作物の作者が著作権を他人や会社に譲渡していたとしても、著作人格権自体は著作物の作者に留め置かれるからです。

 

 

Qスポーツバーを始めようと考えています。テレビのスポーツ中継をお客様に見てもらうために家電量販店で一番大きなテレビを買いました。テレビ局等の許可を得ずにお客様に中継を見てもらっても大丈夫でしょうか。

 

A大丈夫です。
まず、スポーツ中継も映画著作物(著作権法10条)ですので、著作権者の許可無く、上映することは出来ないのが原則です。次に、テレビのスポーツ中継については、テレビ事業者に公に伝達する権利の専有権が認められています(著作権法100条)。よって、原則的にテレビ局の許可無く、テレビ番組を公に伝達することは認められません。 著作権者の著作権に対する関係と、テレビ局の伝達権に対する関係の両方から検討する必要があります。

 

 

著作権との関係
著作物を上演するには、著作権者の許可が必要であることが原則です。

 

しかし、例外的に無断利用も許される場合もあり、著作権法38条3項は、放送される著作物は、営利を目的とせず、かつ、聴衆又は観衆から料金を受けない場合には、受信装置を用いて公に伝達することができる。通常の家庭用受信装置を用いてする場合も、同様とする。と規定しています。

 

「営利目的」は、間接的に利益を得る場合も含まれるので、営利目的があり許されなさそうですが、著作権法38条3項後段は、営利目的の有無を問題とせずに、「通常の家庭用受信装置を用いてする場合」につき、公に伝達する行為(=スポーツバーでお客に見せる行為)を許しています。

 

よって、「通常の家庭用受信装置を用いてする場合」であれば、営利目的があっても許されます。

 

そこで、何が「通常の家庭用受信装置」にあたるかが問題となりますが、通常という用語から、少なくとも家電量販店で購入可能な物は通常の範囲内と言えるでしょう。

 

 

伝達権との関係
テレビ局は、伝達権を専有していますが、伝達権とは「映像を拡大する特別の装置を用いてその放送を公に伝達する権利」とされています。

 

よって、「映像を拡大する特別の装置」を用いなければテレビ局の伝達権を侵害することにはならず、テレビ局の許可無く可能です。

 

そこで、何が「特別」以外なのかが問題となりますが、特別という用語から、少なくとも家電量販店で購入可能な物は特別以外の物と言えるでしょう。

 

以上から、家電量販店で購入可能なテレビを利用する限り、スポーツ中継を著作権者やテレビ局に無断でお客様に見せる事は許されます。