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婚約破棄

結婚前であっても、婚約成立後は、別れに伴い慰謝料が発生する場合があります。婚約成立後も当事者の一方的な通告で婚約は破棄出来ますが、正当な理由なく婚約を破棄した場合には慰謝料が発生します。このように、婚約破棄自体は当事者の片方の申し出で簡単にできる一方で、慰謝料が発生するという状態は、結婚中と、単なる男女交際との中間的な状態にあるといえます。

 

どのような場合に婚約成立が認められるか

 

①結婚の意思が双方にあり、それが双方の親族や家族にも明示されたか。

具体的には、家族に「結婚相手」として紹介された事実があるかです。これは顔合わせの会や結納だけでなくとも、冠婚葬祭に家族同然で出席した場合も含まれます。ただ、単に彼女として出入りしていただけでは、頻繁に出入りしていたとしても婚約は認められません。
また、結婚の意思があったことを裏付ける事実としては、いわゆる嫁入り道具といった家財を用意していたことや、新居を購入した、又は購入しようとしていたという事情があります。

 

②継続的な性交渉があったか

性交渉を直接証明する証拠がない場合でも、男女交際していることが証明出来れば、なかったと考えられる特別な事情が無い限り認められるでしょう。

 

③未成年の場合は、親の同意を得ていたか

未成年の婚姻には父母の同意が必要であるため(民法737条)、婚約成立にも未成年の場合や親の同意が要件とされるべきでしょう。

 

以上の基準から婚約成立が認められる場合、「正当な理由」無く婚約破棄すれば慰謝料が発生します。

どのような場合に婚約破棄が正当と認められるのか

 

これはほぼ離婚が認められる場合の「婚姻を継続しがたい重大な理由」の判断と重なりますが、離婚がそれまでの結婚生活の積み重ねを前提とするのに対して、婚約破棄はそれまでの生活の積み重なりが無いため、比較的離婚よりも認められやすいと言えます。具体的には、婚約成立後の不貞行為、暴力や暴言(当事者のみならず家族に対するものも含まれます)、経済的状態の急変等により、今後婚姻をすることが社会通念上困難な状態となることが認められれば婚約を破棄する正当な理由があると認められます。また、離婚の場合に含めて事例が多いのが、性的不能が発覚したという理由があります。性的不能は通常結婚するまでにわかることから、婚約不履行の場合の方が問題になることが多い理由と言えます。以上のような正当な理由が無い場合、慰謝料が発生しますが、どのような金額になるでしょうか。参考となる裁判例を以下ご紹介いたします。

 

 

事例1判決日時/2007.08.21
請求者 認容金額
(慰謝料以外の損害も含む)
男性のプロフィール 女性のプロフィール
女性→男性 285万580円 医師 医師
婚約破棄の理由
男性の暴力
事実関係
入籍前から男性の暴力が継続的に行われていた。事実婚状態であったことも慰謝料金額に影響している。

 

事例2判決日時/2007.04.27
請求者 認容金額(慰謝料以外の損害も含む) 男性のプロフィール 女性のプロフィール
女性→男性 100万円 職場の同僚(欠席判決のため詳細不明)
婚約破棄の理由
男性が他の女性と交際していたことから一方的に破棄
事実関係
婚約期間中における原告の妊娠および流産が増額に影響する一方で、知り合ってから婚約破棄に至るまでの期間が5ヶ月にすぎないこと、原告からの経済的出捐が特段認められないことが減額に影響している。

 

事例3判決日時/2007.03.28
請求者 認容金額(慰謝料以外の損害も含む) 男性のプロフィール 女性のプロフィール
女性→男性 80万円 会社員 不明
婚約破棄の理由
性格および生活スタイルの違いによる破綻
事実関係
男性の他の女性との交際が主張されているが、この点については、男性女性間の婚約関係が相当程度破綻した後の事情であるとの認定がなされており、このことが額を少額ならしめていると考えられる。

 

事例4判決日時/2007.01.19
請求者 認容金額(慰謝料以外の損害も含む) 男性のプロフィール 女性のプロフィール
女性→男性 522万8,353円 中国電力 財団法人電源地域振興センター 事務員
婚約破棄の理由
男性が他の女性を妊娠させたこと
事実関係
婚約破棄による収入減も損害額(逸失利益)として認容されている(慰謝料額は250万円)。

 

事例5判決日時/2006.12.25
請求者 認容金額(慰謝料以外の損害も含む) 男性のプロフィール 女性のプロフィール
女性→男性 80万円 会社員 会社員
婚約破棄の理由
男性による一方的破棄
事実関係
女性が婚約破棄に起因してうつ病に罹患したことが認められるものの、「婚約破棄によって一般的に通常生じると考えられる程度の精神的苦痛にとどまる」として、慰謝料額は70万円と認定されている。

 

事例6判決日時/2006.12.22
請求者 認容金額(慰謝料以外の損害も含む) 男性のプロフィール 女性のプロフィール
女性→男性 300万円 日蓮正宗正信会僧侶 日蓮正宗正信会信徒
婚約破棄の理由
男性による一方的破棄
事実関係
明確には認定されていないものの、精神的損害の重大性につき、僧侶と信徒の関係も考慮されていると考えられる。女性における適応障害の発症については、既往症があったこととの関係で、男性に全面的に帰責させることを避けている。

 

事例7判決日時/2006.10.30
請求者 認容金額(慰謝料以外の損害も含む) 男性のプロフィール 女性のプロフィール
女性→男性 599万4,280円 不明 不明
婚約破棄の理由
男性が女性に関するネット上の中傷書き込みを軽信して一方的に破棄
事実関係
女性が男性の子を妊娠しており、すでに結婚式も行われていること、DNA検査の結果により自分の子であることが明らかになった後も、男性が子に対して何らの対応も取っていないことなどが増額に作用している(慰謝料額は500万円)。

 

事例8判決日時/2006.02.14
請求者 認容金額(慰謝料以外の損害も含む) 男性のプロフィール 女性のプロフィール
男性→女性 676万5,816円 医師 看護師
婚約破棄の理由
女性が結婚式の2、3日前に男性と連絡を絶ち、他の男性宅に宿泊していたこと
事実関係
女性による破棄の内容の背信性に加え、責任免れのために男性が威迫して虚偽の事実を認めさせたかのような非難をしていることが、増額に作用している(慰謝料額として認定されたのは300万円)。

 

事例9判決日時/2005.09.13
請求者 認容金額(慰謝料以外の損害も含む) 男性のプロフィール 女性のプロフィール
女性→男性 500万円 不明 元経営者
婚約破棄の理由
女性が妊娠したこと
事実関係
男性が女性に対し堕胎を求め、現在に至っては女性との交際を否認しているなどの態度が考慮されている。一方で、女性があえて子を出産し母子家庭となったことについては、「半ば自らの意思による結果であるという面」があるとしている。

 

事例10判決日時/2005.03.17
請求者 認容金額(慰謝料以外の損害も含む) 男性のプロフィール 女性のプロフィール
男性→女性 321万750円 不明 不明
婚約破棄の理由
女性が他の男性との交際を続けていたこと
事実関係
女性に他の男性との関係が認められるものの、婚約の継続期間が約3か月程度とそれほど長い期間ではないことを踏まえて、慰謝料額は100万円と認定されている。

 

事例11判決日時/2005.01.19
請求者 認容金額(慰謝料以外の損害も含む) 男性のプロフィール 女性のプロフィール
女性→男性 100万円 不明 不明
婚約破棄の理由
男性が他の女性(入院先の看護婦)と交際していたこと
事実関係
男性の母から別居時の当面の費用として払われた金銭は、慰謝料に充当されないとしている。

 

事例12判決日時/2004.10.12
請求者 認容金額(慰謝料以外の損害も含む) 男性のプロフィール 女性のプロフィール
女性→男性 331万1,062円 会社員 元会社員
婚約破棄の理由
男性の多忙さ等
事実関係
婚約に起因して、女性が従前の勤務先を退社し、前夫との間の子を連れて渡英までしたことが増額に影響している(慰謝料額300万円)。ただし、逸失給与額や渡英費用は損害額から除かれている。

 

事例13判決日時/2004.03.04
請求者 認容金額(慰謝料以外の損害も含む) 男性のプロフィール 女性のプロフィール
男性→女性 100万円 元会社員 (退職して大学院博士課程に入学) 司法書士
婚約破棄の理由
男性の将来設計に女性が不安を覚え、他の男性からの求婚を受ける気になったため
事実関係
男性が心療内科に通うに至った一方で、女性の現在の夫である人物に対し裁判を提起するなどの行動を起こしたことなどが考慮されている。

 

事例14判決日時/2004.02.27
請求者 認容金額(慰謝料以外の損害も含む) 男性のプロフィール 女性のプロフィール
女性→男性 20万円 49歳 45歳
婚約破棄の理由
男性が婚姻の意欲を喪失したため
事実関係
破棄が婚約から9年後のことであったため、期待を大きく裏切られた女性にストレス性の湿疹・不眠症等の症状があらわれたことが増額方向に影響している。一方で、長期間の経過については女性にも一定の帰責性が認められるとされている。

 

事例15判決日時/2004.01.16
請求者 認容金額(慰謝料以外の損害も含む) 男性のプロフィール 女性のプロフィール
女性→男性 111万7,670円 建設会社代表取締役 IT関連企業 管理部マネージャー
婚約破棄の理由
男性が婚姻の意欲を喪失したため
事実関係
女性の出産直前期における婚約破棄であったため、妊娠11週目での危険な堕胎手術を受けざるをえなくなったとの認定がなされている(ただし、慰謝料額は100万円にとどまる)。

 

事例16判決日時/2003.07.17
請求者 認容金額(慰謝料以外の損害も含む) 男性のプロフィール 女性のプロフィール
女性→男性 230万7,350円 銀行員 同左(退職)
婚約破棄の理由
男性が婚姻の意欲を喪失したため
事実関係
女性が結婚退社し、結婚式の招待状も完成した段階における婚約破棄であること、また男性が翻意を繰り返すなど不誠実な態度を見せ、そのことが余計に女性を傷つけたことなどが考慮されている(慰謝料額200万円)。 なお、退社による逸失利益を損害とは認めていない

 

事例17判決日時/2003.05.22
請求者 認容金額(慰謝料以外の損害も含む) 男性のプロフィール 女性のプロフィール
女性→男性 150万円 司法試験受験生(無職) 看護婦
婚約破棄の理由
男性が両親の反対を受けたため
事実関係
女性が男性との婚姻を前提に出産したにもかかわらず、男性は養育費の負担すらしないということが増額に作用しているものの、婚約内容の不明確性および男性が定職に就いていないことなども考慮されている。

 

事例18判決日時/2003.01.30
請求者 認容金額(慰謝料以外の損害も含む) 男性のプロフィール 女性のプロフィール
女性→男性 100万円 飲食店勤務 ウエイトレス
婚約破棄の理由
同居をめぐる男性の家族と女性との軋轢
事実関係
婚姻前に子ができ、それが家族との軋轢の原因になったことについては、両者の責任であるとの認定がなされている。

 

事例19判決日時/2002.10.22
請求者 認容金額(慰謝料以外の損害も含む) 男性のプロフィール 女性のプロフィール
女性→男性 330万円 冠婚葬祭会社勤務 同左(退職)
婚約破棄の理由
男性が婚姻の意欲を喪失したため
事実関係
婚姻後の新居とするために不動産を購入・リフォームし、家具類も購入するなどして、婚姻生活に備えていたなかで、男性から一部暴力も伴うかたちで婚約を破棄されたことが増額に働いている(慰謝料額300万円)。

 

事例20判決日時/1994.01.28
請求者 認容金額(慰謝料以外の損害も含む) 男性のプロフィール 女性のプロフィール
女性→男性 100万円 ガソリンスタンド石井石油社員 (21歳) アルバイト (21歳)
婚約破棄の理由
男性が他の女性に好意を抱いたため
事実関係
他の女性の存在を受けて、女性の母親が男性を強く非難したこと、女性が男性の父から引越費用等として86万円の支払を受けていること、高校時代から既に男女の関係に入っていたという経緯や年齢等から、元々婚約が現に結婚まで至るについては不安定な要素もはらんでいたこと等が考慮されている。

 

事例21判決日時/1983.03.28
請求者 認容金額(慰謝料以外の損害も含む) 男性のプロフィール 女性のプロフィール
女性→男性 550万円 会社員 同左(退職)
婚約破棄の理由
女性が被差別部落出身者であったため (そのことによる両親の猛反対)
事実関係
破棄の理由自体の問題性、女性が退職を余儀なくされたこと等が高額認定に作用している(慰謝料額500万円)。

 

事例22判決日時/1983.03.08
請求者 認容金額(慰謝料以外の損害も含む) 男性のプロフィール 女性のプロフィール
女性→男性 269万7,380円 会社員 韓国籍
婚約破棄の理由
女性が韓国籍であることに躊躇したため (交際当初から事実は認識していた)
事実関係
女性の国籍関係で両家族を巻き込んでの騒動になったこと、挙式直前の破棄であったこと、女性の年齢(破棄当時25歳)等の事情が考慮されている。(慰謝料額は150万円)。

 

事例23判決日時/1982.06.21
請求者 認容金額(慰謝料以外の損害も含む) 男性のプロフィール 女性のプロフィール
女性→男性 779万5,456円 会社員 社会福祉法人勤務(退職)
婚約破棄の理由
男性が婚姻の意欲を喪失したため(+男性の母親の強い反対)
事実関係
披露宴の招待状の発送や、新婚旅行の準備も整い、嫁入道具が運び込まれる前日に、他人を介し、電話一本で断定的に破棄したこと、また前夜には女性に婚姻に対する期待感を抱かせる言動を見せた等の男性の身勝手な態度が高額認定に作用していると考えられる(慰謝料額は400万円)。